「日本におけるNewtonの今」

「もう一つの日本語環境-Wabumi」
現在の日本でのNewtonの盛り上がりは、UniFEPを抜きには考えられない。
Newton上で、日本語が扱えるというその一点が、これだけのNewton Userを増やす原動力となったのだ。だが、そのUniFEPに先駆けて、しかもフリーウェアとして、Newton上で日本語の表示を可能にしたアプレットがあったのをご存じだろうか。 「Wabumi」である。
今回はその「Wabumi(わぶみ)」の作者である、河口信夫氏に、お話しを伺った。 河口氏はその後、Wabumiで培われた技術を応用して、これまた、日本語の扱える、初のNewton用通信ソフト、「WabTerm」、世界初のNewtonでMacintoshのPICT画像を表示させるアプレット、「Pict2Pkg」等、数々のソフトをフリーウェアとして公開、また、おそらく、日本初の、そして、現在でも、日本語で提供されるNewton関連のWebとしては、もっとも充実したhomepage、「JNI(ジャパン・ニュートン・インフォメーション)」を主催しておられる。
今号では、Wabumiを中心に、そして、次号では、その他の様々なソフトウェアや、ホームページのお話しと、二回にわたってお送りしよう。

インタビューは、名古屋大学内の氏の研究室で、氏の友人であり、フリーウェアの日本語手書き認識ソフト、「Ayumi」の作者である、大久保氏を交えて行われた。

”Wabumi開発への道のり”

筆者(以下略)
「それでは、先ず、「Wabumi」開発への道のりというのをお伺いしたいのですが。」

河口氏(以下敬称略)
「「Wabumi」開発は何処から始まったのかな。一寸、お待ち下さいね。結構記憶は、もう、古いのですけど。ページを見て思い出しても良いですか。」
(こういって、おもむろに自分のホームページを検索する河口氏。余談だが、氏の研究室には、専用線接続された、DECの端末、PowerMacintosh、PB180c、そして数々のPDAが、ところ狭しと並んでいる。)
大久保氏(以下敬称略)
「最初にニュース(NetNewsのこと)で、安く入手できるという話があったときからじゃないですか?」

河口
「あぁ、そうだね。
元々、Newtonには凄く注目してたんですよ。で、欲しかったんですけど、日本語版が出るという話がありましたよね、それまで待とうと。最初の発表から、約一年待ったんですね。夏に出るという話でしたから。待って、で、もう出ないと言うような雰囲気になってて、それでもう耐えられないと言うことで、どっかから買えるという情報がないかと思って、で、偶然、comp.sys.newtonだっけ、その頃、そこが結構、盛り上がっていて、そこで、OriginalのNewtonが一台、$245だと言う話だったんですよ。で、それは良いね、と。$245なら買っても良いかなと。

それと同時に、NTKのデモの本、有るじゃないですか。あれの英語版なんですけど、あれがあって、ニュースなんかでそれに開発環境が付いてるよ、という話があったんですよ。開発環境が手に入るなら、もっと凄いじゃないと。基本的にプログラムするのが凄い好きだったんで、それが良いってことで。(本体の)注文が先だったのかな、(NTKの)本が先だったのかな。とにかく、注文したんですけど、一月ぐらいこなかったんですよ。」

大久保
「税関でどうとか(笑)。」

河口
「そう、一月か、二月ぐらいこなくてですねぇ、まぁ、本も買ってしまったし、それ以外に、Newtonのメモリカードとか、そう言うのも色々注文して、そういうのが、先について。だから、本を見て、本体はまだ無いんだけど、NTKのデモが付いてくるじゃないですか。デモで、プログラム組んでたんです(笑)。で、9月だったかな。
94年の9月ぐらいに、本体がきて、その日の内には、Pkg.が三つぐらい出来てました(笑)。で、こんなに簡単に書けるんだったら、日本語も出せるんじゃないか、ということで始めたんです。

で、日本語環境をやろうと言うことで、NIFTYでその話をしてたんですよ。(93年11月に開設された、FMACPRO、18番会議室、Newton Folderでのことである。)そうしたら、とある方がですね、僕がその当時、学生だったんで、NTKは当時10万円ぐらいしたんで、買えないと。でまぁ、デモ版でも、一応、漢字みたいなのが出ると。NTKが有れば出来るぞ、という話をしていたんですよ。そしたら、「家で使ってないヤツがあるから、それを貸したげましょう」という申し出があったんですね。で、有り難くお受けしてですね、NTKが、送られてきたんですよ。でまぁ、そこまでしたらやるしかない、ということで始まったんです。

それで、まず、漢字はどうしようかと。最初は、NTKに付いてきたフォント、Monacoフォントを置き換えて。パッケージをダンプすると中が見えますよね、ビットマップだから。それを置き換えて、Monacoの「A」が「あ」になると、「B」が「い」になって、そういうヤツを作ったんですよ。で、それが結構動いてたよね。で、普通に入力が出来ると。とりあえず、日本語が、Newtonで動くと。しかも、Monacoで平仮名しかないんですけど、早いんですよ、当然ですけどね。フォントパッケージの大きさが、10kとか、そんなもんだし、これは、凄いぞ、と。Namesにも、ちゃんと入るし、完璧じゃない、って言う話があったんですけど、でも、じゃあ配布出来るかって言うと、配布出来無いじゃないですか。自分で改造した物ですから(笑)。

で、困ったなぁと思っていて、それで、じゃあ、世の中にどんなフォントがあるのかって調べたら、恵梨沙フォントというのがあるよ、という話で。HP-LXの世界で使われているフォントですね。じゃあ、それを一寸探してこようということで、HPのフォーラムへいって、そこの代表の方に、このフォントをNewton用で使いたいんですけどと言ったら、是非ともやって下さい、と。HP以外で、そのフォントが使われるのは、最初じゃないかと。
今は、もう、ChipCard(IBMの発売している、PCMCIA Type2準拠のカードサイズ・コンピューター。最近、第二世代の機種が発売された。)とかでも出てるっていう話ですから、一寸、負けちゃってますけど(笑)。
じゃあ、使わせて下さいってことで、フォントを貰ってきて、で、まぁ、UNIXの環境とかもあったんで、それで、Newton用にコンバートして、作ったんですね。」

大久保
「フォントを落とす先は、その頃はまだ、あいつしかいなかったんですね(笑)。」(と言って、大久保氏、河口氏の私物のPB180cを指す。)

河口
「そう、これで。これで作ってたんですよ、最初は。去年までは。去年の夏だっけこれきたの?」(今度は、PowerMacを指しながら)

大久保
「そのぐらいですか」

河口
「秋だっけ?去年の秋ぐらい、10月ぐらいかな。それまでは、全部これで(プログラムを)書いてたんですね。だから、Wabumiのフォントのコンパイルするのに、15分ぐらい掛かるんですよ、一回作るのに。で、バグが見つかったら、もう一回作りなおしますから...。あっ、とか言って、また15分待つとか、そんなことを延々とやってました(笑)。

フォントの形式も色々考えてですね、あれ、どうやって表示しているかって言うと、ビットマップなんですね、当然なんですけど。で、Newtonのビットマップって言うのは、凄く特殊な形式で、4バイト単位で一列になるんですよ。一応、(Newtonの)中身は32ビットCPUなんで、32ビットで、一列を表示するという形なんですね。そうすると、恵梨沙フォントは8ビットじゃないですか。だから、8ビットを普通におくと、32ビットおきにしか、おけないんですよ。凄くデータが無駄じゃないですか。そこで、色々考えて、32ビットの間で、一つの物のところに四つ入るように詰めてですね、で、PICT表示するときに、そこを上手くずらしてやるようにするというのをやって、フォントの大きさが、最初は200kぐらい有った物が4分の1になって、50kぐらいになったんですね。だから、一番最初のKanjiDispは、60kぐらいだっけ?パッケージとして、60kぐらいから、70kぐらいのサイズで出来るようになったんですね。それまでは、色々、試行錯誤が、たぶん、4、5回、フォントの形式を変えてるんですよ。

表示の方法も幾つか有って、ビットマップを表示する方法と、特殊な、転送する方法が幾つか有るんですね、Newtonには元々。その内のどれを使うかと、(表示の)スピードを調べてみたりとか、色々やって、まぁ、これが一番早いだろうと。
最初から、素直にフォントを作れば良かったんですけど。」

大久保
「全然資料がなかったですからね。」

河口
「資料がなかったのと、あと、UniCodeっていうエンコーディングが有るんだから、どうせなら、それでやりたいと。だけど、そのエンコーディングについて、全然分からないと。その当時、まだ、日本語環境のにの字も無かったときですから、どうやって、載せるかというのが分からなかったんですよ。で、独自コードというか、まぁ、実は、JISのコードをべたっと、つぶして有るだけなんですけど、恵梨沙フォントのコード形式をそのまま使って作ったんですね。
もう一つは、最初は、データをフォントと一緒に入れて、NTKでコンパイルして、やっと表示出来たんです。だから、テキストがありますよね、テキストを先ず、恵梨沙フォント用のデータに直して、で、NTK使ってコンパイルして、やっと漢字が表示できるパッケージが出来た。」

大久保
「フォント全部と、必要なテキスト・データの両方が入ったパッケージ。」

河口
「それがWabumiの(バージョン)0.1。それは、最初は実は、UNIXで開発してまして、UNIXでも出来るし、PCでも出来るし、Macでも、動くという、そういうソフトがあったんですね。今でも一応ありますけど。それは、だから、フォントとデータの両方はいったヤツを作ると。
じゃあ、それをどうやって作ったかというと、自分で、あるテキストを入れたパッケージを作りますよね。で、次に一文字変えて新しいヤツを作る。で、何処が変わっているかを見るわけです、二つのヤツのダンプを。それで、あぁ、ここが変わっていると。確かにそのままだから、入れ替えれば出るじゃない、と。長さを少し変えると、ここと、ここと、ここの値が変わっていると。だから、ここと、ここの値を書き変えれば、いくんじゃないか、という形で、延々と試行錯誤をくり返して、動くようになったんですよ。で、調べていくと、どうも、色々、相関関係があると、分かってきたんですけど、その当時は本当、そんな感じで。」

大久保
「殆ど、公式の資料無しで」

河口
「アメリカの、comp.sys.newtonに、「私はフォーマットを解析しました。」と言う人がいてですね、$50で買って、やったんです。あれは、Paperback(Wabumiと同じように、Macintosh上で、テキストファイルをドラッグ&ドロップすることで、疑似NewtonBookを作成するアプリケーション)の作者だったっけ?」

「David Fedor?」

河口
「そうだよね。」

大久保
「二人いて、一人は$50要求したけど、もう一人は、只で流してくれたんじゃなかったでしたっけ。」

河口
「その人は、ずいぶん後なんだわ。Fedorが出したのが、一寸の差で。だから、Wabumiのアイデアが出来たのは、Paperbackが出たのと、殆ど一緒ぐらいか、一寸後ぐらいだったかな。Paperbackを見て、あっ、そういうことが出来るんだってことで、Fedorにメール書いて、どうなってんだって言ったら、「こう言うのがあるけど、買うか?」っていうから、じゃあ、買います、と。余り大したこと無かったんだよね、その中身は(笑)。一応、でも、Cのヘッダーみたいのが付いているような感じだったんですけど。ま、それを参考に、自分で結局、プログラムを作りなおしてですね、やっているんですよ。

でも、やっぱり、恵梨沙フォントの8x8は見難いとか言う、要望が色々あってですね、結局、後から、KanjiDispのK14ていう、あれはUNIXのフォントなんですけど、あれを持ってきて、作ったんですけどね。あの頃は、もう、拡大、縮小とかのニーズも出てきて。」

「そうですね、私も最初は、恵梨沙フォントの8ポイントで使っていたんですが、少々見づらかったので、K14を10ポイントぐらいに縮小して使ってました(笑)。」

河口
「はい、はい、そうですね(笑)。
だから、本当はもっと、例えば、恵梨沙の方でも、英字フォントが見難いじゃないですか。あれ、実は、手で作って、ちゃんとあるんですけど、それを自分で全部入れ直せば良かったんだけど、まぁ、でも、今更、それを使ってる人もいないかなぁ、と思って、やってないんですけどね。」

「でも、未だに、大量のテキストをブラウズするのであれば、Wabumiを使うのが手軽ですよね。」

河口
「パッケージのダウンロードが手軽ですよね。いくつでも、ぽんと、ドラッグ&ドロップで放り込んで持っていけますから。」

大久保
「フォントとテキストデーターの分解のあたりで、また、技術的に面白い話が(笑)。」

河口 「あぁ、そうですね。Wabumiって、パッケージになって見えるじゃないですか、アイコンが。あれが、だから、結構、賛否両論って言えば賛否両論な気もするんですけどね。じゃまだと。テキストをいっぱい持っていくと、Wabumiのパッケージだらけになってしまって(笑)。で、まぁ、ScrollExとかを入れなければ、あっと言う間に、Extras Drawerがいっぱいになっちゃうじゃないですか。あれが良いのか、悪いのかっていう話もあるんですよね。

オートパート(通常、アイコンの表示されない機能拡張のような形式。BigNotes等のアプリケーションがこれにあたる。)にしちゃえば、アイコンを出さないパッケージも出来るんで、どうしようか迷ったんですけど、Wabumiの最初の段階から、誰にでも使える物にしようと言うのがありまして。ある程度、Newtonの知識がないと使えないと言うよりは、誰にでも使えるようにしたい、と。オートパートにしちゃうと、消去しようと思っても、見えないじゃなですか、何処にあるかっていうのが。それもあって、アイコンで選べるようにしたいと。

だけど、昔はそれぞれのパッケージにフォントが内蔵されていたから良かったんですけど、KanjiDispっていうパッケージがあって、それから、Wabumiのパッケージがありますよね。けれど、二つ別々なのに、Wabumiの方をタップすると、KanjiDispが、立ち上がって来るんですよ。それが、実は、凄く特殊な形式を使ってまして、KanjiDispの中にWabumiが入り込むような形式を使っているんです。まぁ、オブジェクト指向の、凄く特殊な、危ないことやっていると言えば、危ないことをやっているんですけど(笑)。
最初は、それでおかしくなって、良くリセットしてたんですけど(笑)。まぁ、何とか、動くようになって。で、KanjiDispを抜いても大丈夫という風にもしなくちゃいけないですしね。色々苦労して。」

大久保
「その頃、プログラミングしているのを後ろで見ていると、「こんなコードで良いのかなぁ」とか言いながら、作っていて、動いてしまうと、「これで良いやっ」って。本当かなぁって(笑)。その割には、安定してますよね。」

河口
「だから、昔、KanjiDispの仕様を公開しろとか、色々あったんですけど、結構特殊なんですよ。だから、それは、どうしようかなぁと、思って。本当に、任意のところに漢字を表示するようなことも出来るんですけど、でも、凄くマニアックすぎて、余り一般化するような方向には行かないな、と言うのが僕の印象だったんで、公開してないんですけどね。
まぁ、個人的に、どうしても教えてくれ、と言うなら教えますけど、今更という感じはしますね。UniFEPが出てきて、日本語環境がこれだけ大きくなっちゃえばね。」

「今のYokoDispでは、ストレス無く表示されますよね。それまでのWabumiだと、ワンテンポ待たされる感じだったのが、改善されて、非常に頃合の良いスピードで表示されますものね。」

河口
「逆に全部が表示されるまでの時間が丁度良いくらいですよね。一辺にパッと出てきちゃうと読めないから(笑)。
あれで、結婚式のスピーチをしたって言う話もあって(NiftyserveのNewton関連の会議室で一時、出ていた話題に、結婚式のスピーチのプロンプターとして、Newton&Wabumiを利用したという話が出ていた。)、なんか、嬉しいなぁ、と。」

「私は、通信のログ読みに利用してましたが。Newton&Wabumiの組み合わせなら、いつでも、何処でも未読の処理が出来ますから(笑)。」

河口
「あんまり、ブラウジングしやすいとは言えませんけど。」

「いや、特にYokoDispでは、そんなに不満も感じませんでしたけど。」

河口 「まぁ、YokoDispなら、変な風にならないですからね。文字数も三十幾つ出ますからね、小さくすれば。茄子みたいなね、ああ言うブラウザーを作ろうと言う話もあったんですけど、とりあえず、通信環境が出来無いと、出来無いと言うことで。」


さて、ここから話は、WabumiからNewtonにおける通信環境の話へと移っていくのだが、とりあえず、今回は、この辺で。
次回は、続いてWabTermから、河口氏御自身のホームページ、JNI(Japan Newton Information)等を中心にお聞きしていきたいと思う。


御意見、御感想はこちらまで。

riki-t@yk.rim.or.jp


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